Job総研

変化の真っただ中にいるのは、実は30・40・50代かもしれない ―昭和と令和の“はたらき方ギャップ”を読み解く ―

1. 昭和の常識が通用しない時代に突入した

 昭和・平成・令和と時代が進むごとに、社会情勢だけでなく職場の風潮・文化も変化を遂げました。働き方改革推進前やコロナ禍以前の職場では、現在では法律違反やハラスメントに該当する言動がよく見られていたと言われています。
 2024年にJob総研が実施した調査では、「残業」「はたらき方」「ハラスメント」などに関して約6割の社会人が「自分は令和的価値観を持っている」と回答していました。
 これらの回答からは、「昭和的なはたらき方の常識」が今の現場で通用しなくなってきている現実が浮き彫りになります。令和に入り、職場におけるさまざまな規制やガイドラインが増加する中、昭和文化を経験した30代~50代のエピソードに対する20代の印象や価値観はどのようなものになっているのでしょうか。

「怒鳴られて育つ」世代が語る、“あの頃”の職場

30〜50代が経験したはたらき方を“怖い時代”と題してエピソードを募集し、それに対して20代に自由に意見を述べてもらう「本当にあった怖い時代」の企画アンケート。30代〜50代の約9割が”本当にあった怖い時代”を経験したと回答する結果となっています。

2. ─ あれは教育だったのか、それとも…?

 かつて、「怒られて一人前」「理不尽に耐えるのが当たり前」という文化が職場に蔓延していた時代がありました。今回の調査では、30代〜50代の社会人から、そんな“昭和的指導”のリアルなエピソードが多数寄せられました。

  • 新人のとき、定時の30分前には会社に着いてないと“やる気がない”って言われました。毎朝、机拭いて、ポットのお湯確認して…。『それが社会人の基本』とか言われたけど、今思うと意味があったのか正直わからないです」
  • 最初に配属された部署では、お茶汲みが“女性の仕事”って完全に決まってたんです。砂糖の数からミルクの有無まで全部暗記。“気が利かない女は出世できない”とか本気で言われてました…
  • 新人研修で“24時間寝かさないプログラム”っていうのがあって、ずーっと怒鳴られながら自己紹介の練習とかさせられました。あれ、今だったら完全にアウトでしょ…。当時は“根性を試してる”って、本気で思われてました」
  • 入社時にもらった社内ルールに『体調管理を徹底すること。風邪は土日に引くように』って本気で書いてあったんです。最初は冗談かと思ったら、平日に休んだら評価下がるんですよ…。なんの冗談かと

 このような文化は、バブル崩壊後の成果主義時代や、高度成長期に根付いた精神論型マネジメントの影響が色濃く反映されているものと考えられます。

「評価を取る」か「体調を守る」か

一方、30代が経験してきたエピソードについて、20代からは意外な意見が得られました。

  • 風邪ひいて2日休んだら、上司から“社会人の自覚が足りない”って怒鳴られたんですよ。挙げ句の果てには始末書ですよ、始末書。病気でも自己責任って、どんだけ気合い論なんですかね…

コロナ禍を通してウイルスの流行に敏感になっている中、上記のエピソードに対して、20代の約半数が、体調不良が評価に影響する場合「評価を優先してはたらく」と回答しています。
一方で、評価と体調の優先の仕方については意見が分かれるコメントが多く集まりました。
https://job-q.me/28761

◾️「評価のためなら、無理してでもはたらく」派の声

今もなお「評価=頑張りの証」と捉える人は多く、特に若手世代では“無理してはたらく”ことが自分を守る術になっている現状があります。

  • 正直、体調悪いときもありますけど、それで“自己管理ができない”って評価されるのが嫌で…。無理してでも出勤します。これが社会人の常識なのかなって思ってました」
  • 時代錯誤って言われそうですが、やっぱり“頑張ってます感”を出さないと評価が落ちるんじゃないかって不安になります。特に新人のうちは、多少無理してでも印象を良くしたいです」
  • 上司がバリバリ仕事してるのに、自分が休んでるとすごく申し訳なくて…。“あいつは甘い”って思われたら嫌だから、気持ち的に休みにくいんです


◾️「無理しないのが常識」派の声

一方で、現代の価値観を反映し「健康を優先するのは当然」と考える声も確実に広がっています。特にZ世代を中心に、“会社より自分”という意識が根付きつつあります。 

  • 昔は大変だったのは分かります。でも今の時代、体調悪くて怒鳴るとか正直パワハラですし、その会社も上司もヤバいなと思います
  • 冬はインフルとかコロナとかリスク多いじゃないですか。なのに“気合いで来い”とか言われたら…そんな会社には長くいないと思います
  • 私はもう“自分の生活が第一”って決めてます。体調崩してまではたらく意味はないし、そこに全振りするようなはたらき方はしたくないです

「体調を優先する派」と意見が割れたものの、体調不良を評価に反映させる場合、現代では”パワハラ”に該当する可能性もあります。実際評価への影響に”怖さ”を感じてしまう若手層もいることから、上司や評価者は、職場の個人が休みやすい雰囲気を作る必要性が改めて見える結果となりました。

3.「新人だから早く来て当然?」という空気に違和感

 30代以降の世代では当たり前だった「朝早くの準備・雑務は新人が担当」に対して、令和の20代目線では9割が「当たり前ではない」と考えています。過去の『Job weeQ』の調査でも違和感が上位に挙げられているように、新人の仕事に関する常識が変化していることがわかりました。

“新人は誰よりも早く来て、掃除や準備をするのが常識”という古い文化。
現代の若手世代は、その考えにどう向き合っているのでしょうか。実際の声を紹介します。

  • 掃除とか準備を新人がやるのは、まあ100歩譲って仕方ないとしても…なんでそれを“早朝の時間外”に、新卒だけでやらないといけないのか、正直おかしいと感じます
  • どうしても必要な時なら早めに出勤するのは当然。でも、“新人だから30分前には来なきゃダメ”って空気、意味があると思えないんですよね
  • “俺らの頃はもっと厳しかった”とか言ってプレッシャーかけてくる先輩、まだいますよ。そういう“根性の継承”みたいな文化、もうやめたほうがいいと思います
  • 掃除や資料準備って、新人がやるべき仕事って決まってるわけじゃないですよね? だったら気づいた人がやるか、ちゃんと当番制にすべきだと思います
  • ネットで話題にはなってるけど、正直もうネタだと思ってました。実際にそんな文化がまだあるって知って、かなり衝撃でした

4. 世代間ギャップを越えるカギは、“価値観の翻訳力”

 ここまで見てきたように、30代〜50代のはたらき方に対する感覚と、20代の価値観との間にはギャップがあります。けれども、それは単なる「分断」ではなく、むしろ「翻訳」を通して架け橋にできる“可能性”でもあります。
 ─ 変化の真っただ中にいるのは、実は30代〜50代という「ハイブリッド世代」かもしれない
 今回の調査で特に印象的だったのは、30代〜50代のはたらき手たちが、まさに“時代の狭間”に立たされているという事実です。

  • 昭和・平成初期の「根性主義」「年功序列」などの空気を肌で経験
  • 現在は、20代の部下たちと同じ職場で、「心理的安全性」「はたらき方の自由度」を求めるマネジメントを求められる

…という“二つの価値観”に板挟みになる立場です。


昭和的価値観

令和的価値観
気合と根性で乗り切る
無理せず、効率と健康を重視

上司の命令は絶対

対話と納得が重視される

新人が率先して働け

年次に関係なく助け合う風土

 この“狭間”にいるからこそ、彼らは過去を知りつつ、未来を模索できる。いわば、変化を現場で「翻訳」できるキープレイヤーなのです。

社会の変化が「価値観の多様化」を加速させている

近年の社会的な流れも、こうした世代間ギャップをより浮き彫りにしています。

  • 少子化・人口減少
    若年層の“選ばれる側”意識が高まり、企業にも「はたらく側に寄り添う姿勢」が求められるように。
  • ハラスメント防止法の強化
    昔なら「指導」とされていた言動が、今ではパワハラとして指摘されるリスクも。マネジメントには“言葉選び”や“伝え方”の感度が必須。
  • 働き方改革・DX化の推進
    はたらき手の価値観も、キャリアのあり方も変わり続ける中で、「マネジメントのアップデート」が不可欠に。

5. これからの時代に必要なのは「価値観の翻訳力」

 異なる価値観が混在する現代の職場では、「相手の世代に合わせて意味を伝える」ことが何より重要です。必要なのは、指導の厳しさでも押し付けでもなく、“対話”と“共感”を通じた「価値観の翻訳力」です。

今後取り組むべき3つの視点

「根性論」ではなく「共感力」で動かすマネジメント教育
 ― 若手が納得し、動けるようにするには、命令ではなく“共感”の力が必要です。

「上下関係」から「信頼関係」へ:心理的安全性を重視する組織作り
 ― 働きやすいチームには、自由に意見を言える空気があります。年齢や職位ではなく“安心して話せるか”がポイント。

“ハイブリッドなはたらき方”に対応したキャリア支援と福利厚生の再設計
 ― リモートと出社の混在、副業や学び直しへの支援など、柔軟なはたらき方を制度面でも後押ししていくことが求められます。

“違う価値観”を敵としない、橋をかける力を

 世代間のギャップは、対立を生むものではなく、翻訳することで“共に進む力”になります。30代〜50代のミドル世代が、自らの経験をアップデートし、若手世代との共感や対話を通して価値観を「翻訳」していくことが、これからの組織にとって最も重要な「人材力」となるでしょう。

 「昔はこうだった」ではなく、「今はこうなっている」。価値観の変化は、単なる流行ではなく、社会構造の変化に呼応した“現場のリアル”です。

 個々人の意見や価値観が尊重される風潮にある令和時代ですが、30代以降が経験した”昭和あるある”があったからこそ、かつての慣習や風習が見直され、今の”令和文化”誕生に至ったと考えられる調査結果となりました。

 Job総研の調査を通じて、変化の本質を見極め、“次の当たり前”を築いていくきっかけになれば幸いです。