Job総研

「叱られてみたい…」コロナ世代が今、お説教を望む訳

 コロナ禍で就活や社会人経験を積んだ20代の中で「叱られたい」「叱られる経験も必要」と考える声が増えています。一方で上司世代は「叱るのが怖い」「どう伝えればいいか分からない」と悩みがち。叱る側・叱られる側のすれ違いは、世代間ギャップが背景にあるのかもしれません。この記事では、若手がお説教を望む理由や背景、上司の立場から考える接し方のヒントを探ります。

コロナ世代で多い”叱られたい”欲求

 20代の若者に対して「叱られるのが苦手」「うたれ弱い」という印象をもっている上司世代は多いかもしれません。しかし、Job総研の「2023年 上司と部下の意識調査」を見ると、この印象がガラリと変わります。

 調査結果を見ると、叱られたい社会人が2割、その中でも20代の意欲が最多であることがわかりました。さらに「ココだけの本音」の回答者に「仕事において叱られる経験の必要性」を聞くと、「必要派」が68.0%と過半数を占めたのです。

 一般的に「叱られたくない」という感情が強いと考えられる中、20代の必要派が100.0%となるなど、仕事に関しては「叱られる」ことを求める若者が多数を占めていることがわかりました。

20代「叱られたい。将来が不安だから」

 叱られる経験が必要と考えている理由として「将来への不安」が関係していることがわかります。実際に20代から寄せられたコメントは以下の通りです。

・リモートワークで仕事が見えない分、失敗かそうでないかの判断がつかない。上司から叱られてみたい
・上司がハラスメントを気にして叱られた経験がない。将来の自分が心配になる

”叱られる経験”は必要?30~50代で分かれる賛否

 叱られる経験を必要と考える人の割合は約7割でしたが、回答者のコメントでは賛否が割れています。

叱られることへの有り難みを感じた30代以上

30代以上のコメントでは、過去の叱られた経験が今に活きているという意見が見られました。

必要派

・本当に心に響く内容は20年経っても忘れない。良い上司だったと思い出す
・叱られた時は分からなくても、時間が経つと理解できる瞬間が訪れるため
・年齢や経験関係なく正す行為として叱る・注意するは必要。次に活かすためのアドバイスは成長に繋がる

“怒る” と”叱る”を分けて、との意見も

一方、不要派からは「叱る」と「怒る」の違いを指摘する意見がありました。

不要派

・近年ではパワハラとなかねないため、軽い注意でよいと思う
・改善するため、練度を上げるため、と思えない指導は反対です
・人前で叱責したり、必要以上に怒鳴ったりするのは要らない

相手のためにならない指導や、必要以上に強い叱責は不要と感じたり、パワハラとみなされたりする可能性があります。

上司世代「叱る必要性はわかるけど…」

 20代の100%ほどではないですが、50代は83.3%、40代は75%と高い数字が続きます。数字だけを見ると、40~50代は20代の価値観に近いと考えられますが、考え方の中身は異なると推察できます。


 40〜50代はバブル崩壊後や氷河期などの就職難を経験した層も含まれ、過酷な労働環境で”叱られる”だけでなく、”怒られる”経験も受けてきた世代です。そういった経験を経て上司世代になった今、”怒られる”ではなく”叱られる”ことの必要性を実感してきたのかもしれません。

 そのため、20代と同じように叱られる経験は「必要」という価値観を持っていても、奥にある考え方が世代によって異なると考えられます。

「必要性は理解している。若者が叱られたいのも知っている。けど…叱り方がわからない…」このような声も挙がるでしょう。


 このような意見やもどかしさが生まれるのは当然です。叱る側の立場は、上司や先輩にならないと通常わかりません。

ところが、昨今はハラスメントに敏感な風潮があることから、叱り方を”ミスれば”一発アウト。部下との関係修復には時間がかかるうえに、信頼関係を築くことさえも叶わないかもしれません。
 
 上司である自分の気持ちにモヤモヤを残さないためにも、次のセクションでは、コロナ世代はなぜ​​“叱られる経験が必要”と考えるのかを解説します。

コロナ世代はなぜ​​“叱られる経験が必要”と考えるのか

 コロナ世代は、なぜ​​“叱られる経験が必要”と考えるのか、時代背景から彼らが本当に言いたいことを考えてみます。

リモートワークの普及により対面で指導を受けた経験が少ない

 20代の中には、コロナ禍でリモートワークの推進が加速し、対面で指導を受ける機会が減少し始めた時代に入社した層が含まれます。

 特にZ世代は、若年期、つまり社会に出る前に東日本大震災や新型コロナウィルスのパンデミックを経験したことから、「将来への不確実性や不安」を持つと言われています。また、青年期からSNS慣れをしていることから、コミュニケーションもリアルではなく遠隔で取れる状態が彼らの”当たり前”です。

 さらに近年は世の中のハラスメント意識が強まったことで、社会人になっても上司側からの建設的なフィードバックを受けにくくなっています。自身の言動が正しいのか、そうでないかの”ヒント”でさえ、リアルに得られにくいのが現状かもしれません。

ただし強めの叱責はNG

  「叱られる経験が必要」と考えていることを「怒られてみたい」「言葉を選ばない強めのフィードバックがほしい」と受け取ってしまうと、20代の考えとズレが生じる可能性が高いでしょう。

 20代の欲求を噛み砕くなら、「将来の不安を少しでも払拭するために、自分が出した答えや考えに対して、経験や知識がある他者から建設的なコメントが欲しい」と言えるかもしれません。

 例えば、叱る際も「なんでこんなこともできないんだ」と否定だけするのはNGです。若者が求めているのは建設的なフィードバックであるため、具体的な改善提案をセットで伝えるように意識するのがよいでしょう。

“今の若者は甘い”は誤解

 よくありがちな「今の若者は甘い」というイメージは、事実と異なるケースがあります。

 年功序列・終身雇用が当たり前だった世代からすると、少し怒られただけで退職する・自分のやりたいことができないと転職を考えるような若者世代は「甘い」と思うのかもしれません。

 しかし現代では、年功序列や終身雇用といった伝統的な働き方のモデルが大きく崩れ始めており、若者世代は、転職が前提のキャリアアップを求められつつあります。当然、転職市場では即戦力が求められ、転職後は結果を求められるのが現実です。

 見方によっては、若者は甘いどころか、早くから自分のキャリアを自分で選択しなければいけないという厳しい立場であるとも言えます。


 2025年春に話題を呼んだ「退職代行利用」には様々な賛否が飛び交いました。しかし、「早めに意思決定をして行動できている」という賛同もあるなど、むしろ、現代の若者(特にZ世代)は、現実をよく見ており、将来のキャリアを見据えて慎重に考えて行動しているという評価も増えています。

 若者は「甘い」のではなく、上司世代とは異なる、新しくもあり厳しい仕事の価値観の中で生きているとも言えるでしょう。

社会情勢が変われば「常識」も変わる

 上司世代も過去、上の世代から「新人類」「新しい価値観を持っている」「甘い」と言われてきた経験があるでしょう。時代や社会情勢が変われば、はたらく「常識」も変わっていきます。自分とは異なる価値観を”自身のものさし”でジャッジするのではなく、新しい常識の中で互いに信頼関係を築いていくことです。

 叱ることを恐れずに若者に大切なことを伝えていくという姿勢が、人生の先輩として次の世代に還元できることかもしれません。はたらく環境の変化を楽しみながら、世代を超えて歩み寄れる社会を目指すこともできるでしょう。